「ねぇねぇキャプテン、聞きたいことがあるんだけどさ」
「どうした、ベポ」
ポーラータング号内の食堂、その一角で新聞を読んでいたローはベポに呼ばれて顔を上げた。
先程終えた昼食の皿は既に片付けられていて、船員達もそれぞれ持ち場に戻ろうとしている。今日はまだ出航しないので、どこかのんびりとした昼下がりの光景だ。
「あのね、キャプテン。キャプテンって麦わらのどこを好きになったの?」
「は?」
ベポの言葉を待っていたローは、突然の質問に思わず質問を返していた。今更といえば今更な質問だが、これまであまりそういう話を船員達としてこなかったのも事実だ。何故突然。
「……誰かに聞いてこいとでも言われたか?」
問い返しにベポは首を横に振って、ローの隣の席に腰掛けた。新聞を閉じ、畳んでテーブルの上に置いたローは隣にやってきたベポを見上げて言う。
「ならどうして急に」
「単純に気になったからだよ。どうしてなのかなぁって」
単純に。そう言われてローは周りに視線を向ける。どうやら、ルフィとのことについて、気にしているのはベポだけではないらしい。ローの視線に慌てて食堂を出て行く船員達も居れば、興味深そうにこちらを見守っている船員達も居る。
「どうもこうも……」
どこか、と問われると難しい。弾ける笑顔も、底なしかと思う食欲も、敵を見据えた時の静けさも、こちらの事を見透かしている目も。
ローにとっては、その全てがルフィを物語る要素であり、自分がルフィを求めてやまない理由でもあった。
「全部、だな」
「えっ!?」
「おれはあいつの全部が好きなんだよ」
自分でも、どうかしていると思わなくはない。そもそも男に惚れたというだけでもかなり驚いたのはいつのことだったか。紆余曲折を経て恋人同士になった時から、ローはルフィの全てに魅了されている。
「……か」
「か?」
「可愛い、キャプテン!!」
ローの答えを聞いたベポはそう叫ぶと、ローの身体を力任せに抱き締める。
「バッ、おれは可愛くねェ!!」
「ううん、可愛い!今のキャプテンの顔は可愛かった!」
ぐいぐいと頬を擦り付けて叫ぶベポに抱き潰されながら、ローは段々自分が恥ずかしい事を言ったのではないかと顔を赤くしていく。
────と、そこに騒がしい足音が一つ。
「トラ男、準備できたか!?」
近くに停泊していたサウザンドサニー号から冒険の支度を終え、ポーラータング号に駆け込んできた相手はルフィだった。ルフィはローがベポに抱きつかれているのを見ると、一瞬首を傾げる。
「なにしてんだ、二人で」
「いや、これは、」
「麦わら!丁度良かった!今ね、キャプテンに麦わらのどこが好きなのかを聞いてたんだ!」
「ベポ!」
止めるより早く答えたベポに、ルフィの真っ直ぐな視線がローへと向かう。思わず視線を逸らしたローだったが、ルフィは逸れた方に回り込んでまで目を合わせて言った。
「で?どこが好きなんだよ、トラ男は」
興味深そうに見つめてくるルフィへ、ローは暫く迷ってから片手を伸ばす。綺麗で触り心地の良い頬を撫でながら、観念したように言った。
「全部だ」
「全部……」
「そうだ、全部だ」
悪いか?とでも言うように視線を受け止めて見返すと、ルフィは一拍置いてから明るく笑ってローの身体をベポごと抱き締めてきた。
「おれも全部大好きだぞ、トラ男のことなら!」
「分かったから大声で叫ぶな!」
なんの恥じらいも躊躇いもなく叫んだルフィに、ローは顔を赤くしながら叫び返すとベポの背を軽く叩く。それを合図にベポは二人の元から離れ、ルフィとローが抱き合う形となった。
「なんだよトラ男、照れてんのか?」
「お前が照れなさすぎなんだよ!」
「照れるより嬉しいからな!」
しっしっしと腕の中で満足そうに笑うルフィへ、ローは軽くため息をついてから言った。
「それよりも冒険、行くんだろ?準備してくるから、ベポと待ってろ」
頷いて笑ったルフィも一旦ローを解放する。
本人に聞かれたのは想定外だった。だが、これでローがいかにルフィのことを大事に思っているか、船員達には充分に伝わったはずだ。
立ち上がり、船長室へと向かうローの足は不思議と軽い。慌てて食堂の周りから去って行く気配に小さく笑いながら、ローはこれから始まるルフィとの冒険に思いを馳せた。