どうしたってその笑顔の明るさに、ローは弱い。予め二人で予定を組んで出掛けても、その通りに行かないことの多さと言ったら並ではないのだ。付き合い始めたばかりの頃はそれを腹立たしく思うこともあった。
――――けれど、今は。
「トラ男!」
目を輝かせてパッと表情を明るくしたルフィの呼ぶ声に、ローは少しだけ足を早める。
「何か見つけたか、麦わら屋」
「あれ!あの店からいい匂いがする!」
「まだ食べ足りねェのかよ」
匂いを察知したということは、何か美味しそうなものの予感を嗅ぎつけたのだろう。ここに来るまでも度々買い食いをしてきたというのに、相変わらずの胃袋だ。そう考えながら指摘したローだったが、ルフィは首を横に振って答える。
「違ェよ、花の匂いだ!」
「花?」
「おう、こっち!」
頷いたルフィは追いついたばかりのローの手を掴み、人混みを抜けて迷いなく歩いていく。止める間もなく連れてこられたローは、ルフィが足を止めた先の出店を見て目を瞠った。
「へェ、綺麗だな」
思わずそう呟いてしまう程、見事な花達が並んでいる出店だった。生花は勿論、ドライフラワーや木の実を使って作られた飾りやアクセサリーまで揃う店内には感心する。同時に、匂いに敏感なルフィのおかげで辿り着けたのだとも思えた。
「あら、ありがとう」
ローの呟きを聞いて、生花の様子を見ていた店主が振り返る。人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた女性だ。
「なァ、ロビンに買って帰ってもいいか?」
飾られている花々を見ていたルフィの問いに、ローは一定の理解を示す。
「構わねェが、ニコ屋にだけか?」
ロビンが花好きな事はローも知っているし、サニー号に彼女の用の花壇があることも分かっている。ルフィにも、仲間へ土産を買うという認識しかないことぐらいは読めていた。しかし、全く不満がないかと言われると話は違ってくる。
問い返したローにルフィは一瞬首を傾げ、それから腕を組んでしばらく考え込んだ。そして、何かに気づいたようにハッとする。
「トラ男も欲しいのか?」
「……お前にしては早かったな」
一応、今はデートの真っ最中なのだ。仲間に花を贈るなら、恋人である自分にも贈ってほしいと思う。頷いたローに、ルフィはししし!と明るく笑って頷き返した。
「いいぞ!それに、トラ男にやるならこれだ!」
即答したルフィが指で示した花を見て、ローは思わず息を呑んだ。
そこに生けられていたのは、大輪の向日葵だったから。
「……なんで、向日葵を」
絞り出すような声で呟いたローに、ルフィは笑顔を絶やさず答える。
「だってよ、おれとトラ男にとって大事な花だろ?あの時から始まったんだしな!」
得意げに、軽く胸すら張って答えたルフィの頭をローは軽く抱き込んだ。花屋の店主は気を利かせてか、ルフィが選んだ向日葵を早速ラッピングしに向かっている。
「トラ男?」
「おれにとっても、大事な花だ」
向日葵も。向日葵のように笑って、光を見せてくれるルフィも。そう伝わる様に、ローは暫くそのままルフィを抱き寄せていた。