「おれだってして欲しい、膝枕!!」
「あ?」
サニー号の甲板でチョッパーとの勉強会を終えたローが、サンジから飲み物のおかわりを受け取った時だった。勉強会の間は邪魔をする事なく、ウソップとフランキーの元にいたルフィがローの元に戻るなりそう言ったのは。
「何をいきなり言い出してんだ、麦わら屋」
そう冷静に切り返しはしたものの、ローは内心で少しだけ驚きを感じていた。ルフィは付き合う前も付き合ってからもスキンシップが多い方ではあるのだが、こうしてローに直接したい事を言ってくるのは珍しかったからだ。
「いきなりじゃねェ、ずっと思ってた!」
「……ずっと、なァ。順を追って説明しろ」
否定したルフィに向き直り、ひとまず話を聞く事にする。勉強道具を片付けながらローとルフィの様子を窺うチョッパーが、少しだけ心配そうな表情をしていた。
ローの正面に腰を下ろしたルフィは、腰に両手を当てて言う。
「毎回おれの膝を貸してるのに、トラ男は一回も貸してくれた事ねェだろ」
「硬いだけだぞ、おれの太腿は」
ローとて頼まれて断る気はないのだが、ルフィの膝枕――――正確にはルフィの太腿を借りているのにはれっきとした理由がある。それは他ならぬ彼がゴム人間であり、太腿の感触がいいからだ。単なる筋肉質のローの太腿とは寝心地が違う、と考えている。そこまで細かく説明する気はないが、硬いといえば伝わらなくもないはずだ。
「硬いかどうかは問題じゃねェ」
しかし、ルフィは首を横に振ってローの顔を真っ直ぐ見つめる。
「おれがトラ男にして欲しいから言ってる」
どうやらルフィの意思は揺るがないようだ。勉強道具を片付けてウソップの元へ駆けていくチョッパーを見送ったローは、やれやれと首を横に降ると近くのベンチに座り直す。
「仕方ねェから貸してやる」
「……!やった!」
ポンポンと膝を叩いて示すと、パッと明るく輝いた笑顔が目に入った。すぐにローの隣に腰掛けて、草履を脱いだルフィはベンチの上に上がり込むとローの太腿を枕に寝転んだ。
「ししし、ありがとう!トラ男」
寝転ぶ前に脱いだ麦わら帽子をお腹の上に載せ、笑顔で礼を言ったルフィを見下ろしながらローは小さく頷いた。
「感想はどうだ?」
「うーん、確かに硬ェな」
「だから言っただろ」
予想通りの返答にローはひと息吐くと、背もたれ代わりになるマストへ寄り掛かった。今日は少し汗ばむが、居心地が悪いほどの暑さではない。白い雲が散らばる青空を見上げていると、ふいに伸びてきた手がローの頬を撫でた。
「なんだ」
「いや。トラ男の顔がよく見えるなーって」
そう言って楽しそうにローの頬に触れるルフィへ、ローは視線を下ろす。満足しているのは結構な事だが、こんな風に触れられて何も返さずにいるわけにはいかない。少し身を屈めて、ルフィの前髪を指先で掻き分ける。
「トラ男?」
不思議そうにしているルフィの額へローがそっと口付けると、ルフィは一瞬動きを止めたあとで擽ったそうに笑った。
「お前が誘ったんだ、今のは」
「ししし!おれ、今ちょっと分かった気がするぞ」
「何が分かったって?」
「トラ男を膝枕してる時、トラ男が手を伸ばしてくる理由が!」
言いながら、僅かに身を起こしたルフィはローの頬に口付けを返して笑う。
「こんなに近いと、思わず手を伸ばしちまうんだろ?」
普段は別々の航路を行くからこそ、束の間の逢瀬で距離が縮まれば届く。その瞬間を逃したくないと思ったのは、ローだけではないらしい。
ルフィの指摘に一瞬だけ目を瞠ったローだったが、そこまで伝わったのならと未だ頬から離れないルフィの手を掴んで口角を持ち上げる。
「なら、今夜はたっぷりと手を伸ばしてやるよ」
「おう!」
任せろ、とでも言いたそうに強気な笑みを浮かべたルフィへローはもう一度口付けを落とした。