夢の終わりはいつだって唐突だ。
それはルフィが夢の果てをどんな形でも見たくないと願っているからなのか、単に時間切れになるまでが早いからなのかは分からない。でも、今日も楽しい夢を見ていた気がする。
まだ少し重たい瞼を開けて、周囲を見渡す。部屋の中は暗いが、窓の外から僅かに光が差し込んでいる。しかしそれは直接的な太陽の光ではない。正確には煌めく海水が届ける光だった。それを見て、ルフィは静かに目を輝かせる。いつもとは違う目覚めの光景が、嬉しい夜明けを実感させてくれた。ここはサニー号の中ではない。
ルフィ達麦わらの一味は昨夜、久しぶりに合流したハートの海賊団と宴を開いた。同盟を解除した後ではあったが、宴をするだけの十分な理由が双方にできたからだ。
それは、ルフィとローが晴れて恋人同士になったことを祝うための宴だった。
提案を持ちかけてきたのはハートの海賊団の方だが、ローには直前まで伏せていた為に昨夜は一悶着ありはした。だが、ルフィの喜ぶ顔を見たことで、ローも最終的には宴を楽しんでくれた。
そうして夜は更けて、段々と酔いが回りすぎた者達が眠りに入ってきた頃にルフィはローの誘いを受けて、ポーラータング号に乗り込んだのだ。
乗り込んだ後は少しお互いの近況を話して、それからまだ慣れないキスをして。その後の事を思い出そうとして、ルフィは自分の頬が熱くなるのを止められなかった。
昨夜、ルフィは初めてローに抱かれたのだ。
勿論、言葉の上での意味はルフィだって知っていた。チョッパーからも話を聞いていたし、興味がなかったといえば嘘になる。だから、ローが自分を求めてくれていると知った時、ルフィは嬉しさのあまり自らローに抱きついてしまった。ローは驚きはしたものの、ルフィの気持ちを知って嬉しそうに笑った。
そこからは、とても熱くて甘い時間を過ごした。気持ち良さに飲み込まれることがいかに心地良いかを、ルフィは昨夜初めてローに教えてもらったのだ。何もかもが初めてだったルフィに、ローは一つ一つ丁寧に教えてくれた。だからまだ、こんなにも胸の奥がドキドキしているのだとルフィは思う。
(トラ男、まだ寝てるな)
改めて、至近距離で見ても整った顔立ちをしている。眠っている時は普段皺を刻みがちな眉間が緩んでいて、穏やかな表情にも見えた。規則正しい寝息が聞こえてくる。その、ローの片腕の中に抱き込まれているルフィはそっとローの胸元に頭を寄せた。片耳を添えて、開いたばかりの目を閉じる。トクン、トクンと脈打つ鼓動を深く感じるように。
「何してる」
「わッ!?トラ男、起きてたのか!」
少し頭を下げていたので、頭上から降ってきた低い声に驚いてしまった。少し張った声が掠れ気味なことにも驚いて目を開けると、ローの金色の瞳がこちらを真っ直ぐ見下ろしていた。眉間には皺が戻っていて、ルフィは思わず感心してしまう。
「いつものトラ男だ」
「……寝ぼけてんのか?」
訳が分からないと疑問視する声に、ルフィは軽く首を横に振った。今のは伝わらなくてもいい。
「酷ェ声だな、麦わら屋」
「トラ男のせいだろ。喉痛い」
「水、飲むか」
「飲む!」
昨夜散々ルフィを喘がせた事に少しは罪悪感があるらしい。ローからの提案に二つ返事で頷いたルフィは身体を起こそうとして、腰に鈍い痛みが残っている事に気付いた。片腕を退けたローが先に身体を起こし、やや申し訳なさそうな顔をする。
「痛むか」
「ちょっとだけな。身体より喉が先だ」
「横になっとけ、のど飴も出してやるから」
悪い、とは言わないローにルフィも不満はない。
言われたとおりにベッドで横になっていると、ローが自身の能力を使って机の上の紙束と水差しを入れ替えた。ルフィの身体を跨いでベッド傍に降り立ったローは、机の引き出しから小瓶を取り出す。水差しからグラスに水を注いで、まずはルフィの手元にそれを差し出した。ゆっくりと身体を起こしたルフィがグラスを受け取ると、ローも自分の分をグラスに注ぐ。
「ぷはっ、うめェ!」
一気に一杯目を飲み干したルフィを見つつ、ローもグラスの中身を半分ほど飲み干した。それから、取り出した小瓶の蓋を開けて中身を出す。
「手ェ出せ、麦わら屋」
「おう!」
言われるがまま片手を差し出すと、その掌にころりと丸い飴玉が転がった。
綺麗な黄色をしているそれを見つめる。黄色というよりは鈍く光る金色かもしれない。
「食べていいぞ」
「食べるけど、キレイだなと思ってよ」
何故か勿体無いと思ってしまったのは、やはりローの瞳を重ねてしまったからだろうか。素直な感想を口にしてから、ルフィは飴玉を口の中に放り込んだ。途端、広がる爽やかな甘さに目を瞠る。
「ん……うめェな、これ!」
「蜂蜜とレモンが入ってるのど飴だ」
蜂蜜とレモン。サンジなら持ち帰れば再現してくれるだろうか。ころころと口の中で転がる飴玉が少しずつ溶けていく。美味しさに顔を綻ばせていると、グラスを空にしたローがルフィの傍に座り直した。
「気に入ったか」
ローの問いに頷くと、そのまま頭を撫でられた。
「でも、分けてくれなくていいぞ」
ごくりと喉を鳴らして溶け切った飴玉を飲み込んだあとにそう言うと、ローは僅かに目を瞠った。
「珍しいな、お前が食い物のことで譲るなんて」
「気に入ったけどよ、これはなんか……トラ男と居た時だけがいい!」
そう。二人だけの味にしておきたいと、ふと思ったのだ。笑って伝えたルフィに、ローは一瞬驚いた顔をした後でルフィの身体を抱き寄せた。
「分かった。なら、これはおれとお前だけの秘密にしよう」
「ししし!そうだな、おれ達だけの味だ」
ローの耳が少し赤くなっている事には気づかないふりをして、ルフィはローと抱き合った。また、この飴玉を味わう日が来るといいなと願って。